自然といふものは、時々皮肉な惡戯をやるものですよ。云々。私はただAの話をのべただけにとどめよう。これらの話に、徒に眉をひそめる人と、ある儚さを汲み得る人とは、その各の境遇に伴ふ心持に依つて別れるであらうと思ふから。
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と其「女醫の話」の創作一篇は筆を止められてゐるが自分たち、お貞さんといふ人を知つてゐる者には此何氣ない數行の言葉のなかにも實によくお貞さんといふ人を語つてゐる。田山花袋氏によつて、小説家としての人生に對する心の据ゑ方ともいふべき態度を教へられ、言はず語らずのうちにも平面描寫の正しい效果を信頼しつづけたお貞さんの信念は此作の最後の二行によく表現されてゐると思ふ。そしてさきに言つたやうに眞面目に女性といふものの天來の儚い宿命、姙娠といふ事がいろいろの形をとつて或る時は自然の惡戯とも思はれるやうに出現してくる。婦人は其下に時には世に顏向けもならないやうな思ひを、正しく生きつつさせられねばならぬ事情におかれて居る事もある。女といふものの運命を冷然と描寫しようとしたお貞さんの此態度は途中崩れた事があつたと思ふ。有島武郎氏は仙子さんの藝術的生活には「凡そ三つの
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