の感慨を、書いても書いても書き盡せぬといふやうに思つてゐたらしい。たとへば「女醫の話」といふ作に、
「女を診察するには、どんな場合にでも姙娠といふ事を頭に置いてかからなければいけない」と語り出す。或る女醫の實地に出會した經驗のなかに十八歳になる娘が女醫學校へ老婆につれられて、病名のわからぬ病氣の診察を受けに來た話を書いたものである。醫者は其娘を姙娠と診斷した。「女を診察するにはどんな場合でも姙娠といふことを念頭に置かなければいけない」
と書いた。
お貞さんの姉さんは女醫學校の生徒さんであつたが、此女醫の話に出てくる女らしい觀察と誠に娘らしい純情とを此作のなかに汲みとる事が出來るのである。
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さうさう、これは學生時代に、先生が話したことでしたが、某官吏の夫人がお産をして、一週間目に夫は臺灣に赴任したさうです。すると夫人の肥立がよくなつて來ると同時に、だんだんお腹が大きくなつて來たので、親戚の者が氣付いて大さわぎをやつた揚句、事の次第を報じてやると、間もなく夫からは「心配するな」といふ電報が來たさうです。この話を聞いた時分には、私も奇蹟を聞くやうな氣がしましたつけ。
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