れを持つて遠い東都の文化に思ひを寄せつつおけいこ通ひをしてゐる。さういふ女塾に時折は息子の嫁をさがしに商家の母親など出入する事があつた。郡山町の白石初子といふ人は後にお貞さんが出京して專心文學の修業にかかつた時の後援者の一人であつたが、そして私も面識があるが、此お初ちやんがさうした女塾へ新弟子として入つてくる所から此小説ははじまつてゐる。お初ちやんはやはり少女界から女子文壇に移つて行つた投書家仲間の一人であつたが、美しい娘でさきに一寸書いたやうに、
「二つとや……二つ二葉屋のお粂さん……お粂さん、赤い襷[#「襷」は底本では「襖」]で砂糖かけ……砂糖かけ」
といふ町の唄にもうたはれた程であつた。此お粂の結婚をきつかけに其當時一緒に裁縫通ひをしてゐた友達の誰れ彼が結婚に向つて進まねばならぬやうになつてくる。作者の彌生は田舍娘として商家に嫁入つてしまふのに滿足出來ないで苦しんだ。
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傘をつぼめて雪あがりの空を眺めると、眩しいやうな冬の光に瞼を射られて、思はずも目を落す足許に、足袋のよごれの目にたつのも物悲しく、シヨールに腮を埋めてとぼとぼと燈の入つた街をかへる。其道順の
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