へながら、まだ時代の若いのと社會の若い娘等に課する自然の束縛を脱し得ないで苦しみ羽ばたきする、其時代の娘たちのあがき[#「あがき」に傍点]を浮薄な氣持を少しも加へないでガツチリと書き現はされたよい作だと思ふ。田山花袋氏は水野仙子集に序して「お貞さんのおとつさんは、面白い人で、田舍人らしい、また、田舍の商人らしい氣分と性質とを持つてゐた人らしかつた。」
 一體お貞さんの生れた須賀川といふところは、昔からあたりにきこえた商人町で、郡山や、白河や、二本松に比べて、何方かと言へば、士魂商才の其商才に屬する氣分の漲つた町であつた。從つて、「お貞さんには、士族の娘といふところはなかつた。何うしても堅い田舍の商家の娘であつた。それにどこをさがしても浮華なところ、輕薄なところがなかつた。全身すべて是れ誠といふやうな人であつた」と書いてあるが、實によく其弟子を語つてゐると思ふ。さうした須賀川町の堅氣な商人の年頃の娘たちが小學校を卒業すると、學校といふのでなく、無理に頼んで入れてもらつたといふやうな、堅實な裁縫所に集つてくる、娘たちはふろしき包のなかに時々三越タイムスなどをしのばせて、矢張り娘らしいあくが
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