余裕のことなど
伊丹万作
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)磨墨《するすみ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)名馬|生食《いけずき》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)ねつたい[#「ねつたい」に傍点]
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近ごろの世相は私に精神的呼吸困難を感じさせることが多い。しかし、日本人がもしも本来の大和心というものを正しく身につけているならば、世の中が今のようにコチコチになつてしまうはずはないのである。
たとえば直情径行は大和心の美しい特質の一つであるが、近ごろの世の中のどこを見てもそのようなものはない。
直情径行といえばすぐに私は宇治川の先陣あらそいでおなじみの梶原源太景季を想い出す。
「平家物語」に出てくる人間の数はおびただしいものであるが、それらの全体をつうじてこの源太ほど私の好きな人間はいない。
だれでも知つているとおり、源太は頼朝が秘蔵の名馬|生食《いけずき》を懇望したがていよく断られた。そしてそのかわりに生食には少し劣るが、やはり稀代の逸物である磨墨《するすみ》という名馬を与えられた。源太はいつ
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