知らせることはよくない。数多いテストによって少しずつ俳優を引きあげて行って次第にその距離を縮めて行くように試みるべきである。

○俳優がすぐれた演技を示した場合には何らかの形で必ず賞讃すべきである。

○俳優がせりふを暗記しようと努めているふうが見えるときは話しかけてはいけない。

○重要なあるいは困難な演技をシュートするときは必要以外の人間を仕事場に入れてはならぬ。

○セットはたえず掃除せよ。しかし掃除していることが目立ってはいけない。
 つつましやかにいつもセットを掃除していてくれるような働き手を演出者は見つけるべきである。そういう人が見つからないときは自分で掃くがよい。それほどこれは肝腎な仕事なのだ。セットがきたないことは仕事の神聖感を傷つけ、緊張をそこね、そこで働く人たちを容易に倦怠に導く。ことに俳優への心理的影響が軽くない。
 通例照明部の人たちは泥のついたコードを曳きずり、泥靴をはいたままで、殿様の書院でも江戸城の大広間でも平気で蹂躙してまわる。その後から白足袋で歩いて行く大名や旗本は、演技にかかるまえにもうその神経を傷つけられてしまうのである。かかる無教養ながさつさ[#
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