関しても前二項とほぼ同様のことがいえる。

○演出者が大きな椅子にふんぞりかえっているスナップ写真ほど不思議なものはない。病気でもない演出者がいつ椅子を用いるひまがあるのか、私には容易に理解ができない。
○現場における演技指導はいつ、いかなる手順で行なわるべきか。こんなふうな問題は能率(商品的な意味ばかりでなく)のうえから最も肝要なテーマであるが、我々は慣習としてもこれを自分の身につけていないし、法則としてもそれを教えられていない。いわばまったくでたらめだったのである。多少とも批判の眼を持って我々の仕事場を参観に来る人々に対し、私がいつも汗背の念を禁じ得ないのは我々の仕事があまりにも無秩序で原始的なことであった。
 そしてこんなことは一人や二人の力ではどうにもなることではないが、しかしこのままでたらめを続けて行くわけにも行かない。そこで私は自分の仕事のときだけでも多少の秩序を設けたいと思い、最近の仕事では次のような順序による方法を励行してみた。
[#ここから改行天付き、折り返して2字下げ]
一、その日の撮影プランの説明。(これは実際的な理由から大概省略したが向後はなるべく実行したい。)
一、そのカットの演技の手順の説明。
一、右の説明に沿って俳優を実際に動かせ、しゃべらせてみる。(むろん大略でよろしい。)
一、右の三項の間、演出助手、カメラマン、照明部、録音部、大道具、小道具、移動車の係などそのときの仕事に関係あるものは残らず手を休め、静粛にこれを注視している。
一、次に俳優はいったんその位置を去り、付近の自由なる場所において任意にせりふの暗誦その他練習をする。
一、その間にカメラのすえつけならびに操作準備、照明器具に関する作業、マイクの操作準備、大道具の取りはずし、移動の用意など、必要に応じて、要するにいっさいの荒々しき作業を片づける。
一、右がほぼ終ったころを見はからって俳優を既定の位置に着かせる。本格的な演技指導がそれから始まり、進むにつれて指導は次第に細部におよんで行く。
一、これと並行して、同時に一方では照明の修正、カメラの操作テスト、録音に関する整備、小道具の充足、大道具の修理などが行われる。
一、大体の見当がついたら綜合的テスト。
一、十分に見当がついたら本意気のテスト。
一、シュート。
[#ここで字下げ終わり]

○古くさい芸術家きどりの「気分主義」
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