わが妻の記
伊丹万作
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素姓
中学時代の同窓にNという頭のいい男がいた。海軍少尉のとき、肺を病つて夭折したが、このNの妹のK子が私の妻となつた。
妻の父はトルストイにそつくりの老人で税務署長、村長などを勤め、晩年は晴耕雨読の境涯に入り、漢籍の素養が深かつた。
私の生れは四国のM市で、妻の生れは同じ市の郊外である。そして彼女の生家のある村は、同時に私の亡き母の実家のある村である。だから、私が始めて私の妻を見たのはずいぶんふるいことで、多分彼女が小学校の五年生くらいのときではなかつたかと思う。
健康その他
結婚以来、これという病気はしないが、娘時代肺門淋巴腺を冒されたことがあるので少し過労にわたると、よく「背中が熱くなる」ことを訴える。戦争中は激しい勤労奉仕が多く、ことに私の家では亭主が病んでいるため隣組のおつき合いは残らず妻が一手に引受けねばならず、見ていてはらはらするようなことが多かつた。家の中でどんなむりを
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