しても外へのお義理を欠くまいとする妻は激しい勤労のあとでは決つて二、三日寝込んだ。こんなふうでは今にまいつてしまうぞと思つているうち、妻より先に日本のほうがまいつてしまつた。
身長は五尺二寸ばかり。女としては大がらなほうである。
きりようは――これは褒めても、くさしても私の利益にならない。といつて黙つているのも無責任である。だが――考えてみると妻もすでに四十四歳である。彼女の鬢に霜をおく日もあまり遠い先ではなさそうである。してみれば、私が次のようにいつても、もうだれもわらう人はあるまい。すなわち、「若いころの彼女は、今よりずつとずつと美しかつた」と。
主婦として
まず経済。家計のことはいつさい任してあるが決してじようずなほうではない。といつてむだ費いもしない。ときに亭主に黙つて好きな陶器や家具を買うくらいが関の山である。家計簿はつけたことがない。私がどんなにやかましくいつても頑として受け付けない。そういうことはできない性分らしい。近ごろではこちらが根負けして好きにさせてある。結婚当時の私の定収入は月百円、シナリオを年に二、三本書いて、それが一本二百円くらいの相
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