去り人類は、いつの間にやら戦争を考えなくなるであろう(四九―五一頁)。
 人類の闘争心は、ここ数十年の間はもちろん、人類のある限り恐らくなくならないであろう。闘争心は一面、文明発展の原動力である。しかし最終戦争以後は、その闘争心を国家間の武力闘争に用いようとする本能的衝動は自然に解消し、他の競争、即ち平和裡に、より高い文明を建設する競争に転換するのである。現にわれわれが子供の時分は、大人の喧嘩を街頭で見ることも決して稀ではなかったが、今日ではほとんど見ることができない。農民は品種の改善や増産に、工業者はすぐれた製品の製作に、学者は新しい発見・発明に等々、各々その職域に応じ今日以上の熱を以て努力し、闘争的本能を満足させるのである。
 以上はしかし理論的考察で半ば空想に過ぎない。しかし、日本国体を信仰するものには戦争の絶滅は確乎たる信念でなけれはならぬ。八紘一宇とは戦争絶滅の姿である。口に八紘一宇を唱え心に戦争の不滅を信ずるものがあるならば、真に憐むべき矛盾である。日本主義が勃興し、日本国体の神聖が強調される今日、未だに真に八紘一宇の大理想を信仰し得ないものが少なくないのは誠に痛嘆に堪えな
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