一点に兵力を集中してそこを突破すれば良いように考えられるが、突破しても爾後の突進力を欠き、却《かえ》って背後を敵に脅かされて後退の余儀なきに至り、ややもすればその後退の際大なる危険に陥るのである。一七四四年第二シュレージエン戦争に於てベーメンに突進したフリードリヒ大王が、敵の巧妙な機動戦略のため一回の会戦をも交える事なく甚大の損害を蒙って本国に退却した如きはその最も良き一例である。(一八○頁参照)
一八一二年ナポレオンのロシヤ遠征はこれと同一原理に基づく失敗であり、この種の戦争では遊撃戦(すなわち小戦)の価値が極めて大きい。
作戦は通常冬期に至れば休止し、軍隊を広地域に宿営せしめて哨兵線をもって警戒し、この期間を利用して補充、教育その他次回戦役の準備をする。時に冬期作戦を行なう事あるもそれは特殊の事情からするもので、冬期作戦に依る損害は通常甚だ大きい。故に一度敵地を占領して要塞、河川、山地等のよき掩護を欠く時は冬期その地方を撤退、安全地帯に冬営するのが通常である。
ナポレオン以後の戦争のみを研究した人にはなかなか想像もつかない点が多いのである。しかしこの事情をよく頭に入れて置かね
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