この二つの方式は各々利害があるが大体に於て決戦戦争に於ては統帥権の独立が有利であり、持久戦争に於てはその不利が多く現われる。これは統帥が戦争の手段の内に於て占むる地位の関係より生ずる自然の結果である。
 これを第一次欧州大戦に見るに、戦争初期決戦戦争的色彩の盛んであった時期には、統帥権の独立していたドイツは連合国に比し誠に鮮やかな戦争指導が行なわれ、あのまま戦争の決が着いたならば統帥権独立は最上の方式と称せられたであろうが、持久戦争に陥った後は統帥と政治の関係常に円満を欠き(カイゼルは政治は支配していたけれども統帥は制御する事が出来なかった)。これに反し、クレマンソー、ロイド・ジョージに依り支配せられその信任の下にフォッシュが統帥を専任せしめられた大戦末期の連合国側の方式が遂に勝を得、かくて大戦後ドイツ軍事界に於ても統帥権の独立を否定する論者が次第に勢いを得たのである。
 ドイツの統帥権の独立はこの事情を最もよく示している。
 フリードリヒ大王以後統帥事項は当時に於ける参謀総長に当る者より直接侍従武官を経て上奏していたのであるが、軍務二途に出づる弊害を除去するため陸軍大臣が総ての軍
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