に過ぎないために服役を免れる男子が多かった。ソ連極東兵備の大増強、支那事変の進展により、徴集兵数は急速に大増加を来たし、国民皆兵の実を挙げつつある。兵役法はこれに従って相当根本的な改革が行なわれたが、しかも更に徹底的に根本改正を要するものと信ずる。
国家総動員は国民の力を最も合理的に綜合的に運用する事が第一の着眼である。教育の根本的革新に依り国民の能力を最高度に発揮し得るようにするとともに、国民はある期間国家に奉仕する制度を確立する。即ち公役に服せしむるのである。兵役は公役中の最高度のものである。
公役兵役につかしむるについては、今日の徴兵検査では到底国民の能力を最も合理的に活用する事が出来ない。教育制度と検査制度を統一的に合理化し、知能、体力、特長等を綜合的に調査し、各人の能力を充分に発揮し得るごとく奉仕の方向を決定する。
戦時に於ける動員は所要兵力を基礎として、ある年齢の男子を総て召集する。その年齢内で従軍しない者は総て国家の必要なる仕事に従事せしめる。自由企業等はその年齢外の人々で総て負担し得るように適切綿密なる計画を立てて置かねばならない。
空軍の発達に依り都市の爆撃が行なわるる事となって損害を受くるのは軍人のみでなくなった。全健康男子総て従軍する事となった今日は既成の観念よりせば国民皆兵制度の徹底であるが、既に世は次の時代である。全国民野火の禍中に入る端緒に入ったのである。
次に来たるべき決戦戦争では作戦目標は軍隊でなく国民となり、敵国の中心即ち首都や大都市、大工業地帯が選ばるる事が既に今次英独戦争で明らかとなっている。
すなわち国民皆兵の真の徹底である。老若男女のみならず、山川草木、豚も鶏も総て遠慮なく戦火の洗礼を受けるのである。全国民がこの惨禍に対し毅然として堪え忍ぶ鉄石の精神を必要とする。
空中戦を主体とするこの戦争では、地上戦争のように敵を攻撃する軍隊に多くの兵力が必要なくなるであろう。地上作戦の場合は無数の兵員を得るため国民皆兵で誰でも引張り出したのであるが、今後の戦争では特にこれに適した少数の人々が義勇兵として採用せらるるようになるのではなかろうか。イタリアの黒シャツ隊とかヒットラーの突撃隊等はその傾向を示したものと言える。
義勇兵と言うのは今日まで用いられていた傭兵の別名ではない。国民が総て統制的に訓練せられ、全部公役に服し、
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