の間に於て甘んじて身体を上官に致し、一意その指揮に従うものとす」と示したのである。これ真に達見ではないか。全体主義社会統制の重要道徳たる服従の真義を捉えたのである。しかし軍隊は依然として旧態を脱し切れないで今日に及んでいる。今や社会は超スピードをもって全体主義へ目醒めつつある。青年学校特に青少年義勇軍の生活は軍隊生活に先行せんとしつつある。社会は軍隊と接近しつつある。軍隊はこの時代に於て軍隊生活の意義を正確に把握して「国民生活訓練の道場」たる実を挙げねばならぬ。
殊に隊内に私的制裁の行なわれているのは遺憾に堪えない。しかも単に形式的防圧ではならぬ。時代の精神に見覚め全体主義のために如何に弱者をいたわることの重大なるかを痛感する新鮮なる道義心に依らねばならぬ。東亜連盟結成の根本は民族問題にあり。民族協和は人を尊敬し弱者をいたわる道義心によって成立する。朝鮮、満州国、支那に於ける日本の困難は皆この道義心|微《かす》かなる結果である。軍隊が正しき理解の下に私的制裁を消滅せしむる事は日本民族昭和維新の新道徳確立の基礎作業ともなるのである。
第五章 戦争参加兵力の増加と国軍編制(軍制)
第一節 兵 役
火器の使用に依って新しい戦術が生まれて来た文芸復興の時代は小邦連立の状態であり、平常から軍隊を養う事は困難で有事の場合兵隊を傭って来る有様であったが、国家の力が増大するにつれ自ら常備の傭兵軍を保有する事となった。その兵数も逐次増加して、傭兵時代の末期フリードリヒ大王は人口四百万に満たないのに十数万の大軍を常備したのである。そのため財政的負担は甚大であった。
フランス革命は更に多くの軍隊を要求し、貧困なるフランスは先ず国民皆兵を断行し、欧州大陸の諸強国は次第にこれに倣う事となった。最初はその人員も多くなかったが、国際情勢の緊迫、軍事の進歩に依って兵力が増加せられ、第一次欧州大戦で既に全健康男子が兵役に服する有様となった。
第二次欧州大戦では大陸軍国ソ連が局外に立ち、フランスまた昔日の面目がなくなり、かつ陸上作戦は第一次欧州大戦のように大規模でなかったため第一次欧州大戦だけの大軍は戦っていないが、必要に応じ全健康男子銃を執る準備も列強には常に出来ている。
日本は極東の一角に位置を占め、対抗すべき陸軍武力は一本のシベリヤ鉄道により長距離を輸送されるソ連軍
前へ
次へ
全160ページ中134ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
石原 莞爾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング