なので、脂《あぶら》のにじみ出たような顔に血の色が出ていた。ランプの灯に、目がちかちかするくらい頭も興奮していた。
お銀は笹村の蒲団の汚いことを言い出して笑った。
「初めての蒲団を敷いたとき、びっくりしましたよ。食べ物やほかのことはそんなでもないのに、一体どうしたんでしょうと思って……敷いてから何だか悪いような気がして、また押入れへしまい込んだり何かして。」
「その家はどういう家なんだ。」笹村はまた訊《き》いた。
「そこの家ですか。それがまた大変に込み入った家なんです。阿母《おっか》さんというのが、継母で、もと品川に芸者をしていたとか言うんですがね、栄というその子息《むすこ》と折合いがつかなくて、私の行った時分には、余所《よそ》へ出ておったんですがね、それをお爺さんが入れるとか入れないとか言って、始終ごたごたしていたましたっけがね。子息も面白くないもんですから、やはりお金を使ったり何かするんですね。栄はちょっとした男でしたけれどね、私初めから何だか厭で厭で、いる気はしてなかったんです。」
逃げて来てからも、その男に附き纏《まと》われたことなどを附け加えて話した。
「それに、ずうずう
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