かって、パイレートを舌の痛くなるほど続けて吸った。
衆《みんな》は食べ飽きて気懈《けだる》くなったような体を、窓の方へ持って行って、夕方の涼しい風に当った。
やがてお銀が、そこらに散らかったものを引き取って行った。
お銀が初めてここへ来たのは、ついこのごろであった。ある日の午後、どこかの帰りに、笹村が硝子《ガラス》製の菓子器やコップのようなものを買って、袂《たもと》へ入れて帰って来ると、茶の室《ま》の長火鉢のところに、素人《しろうと》とも茶屋女ともつかぬ若い女と、細面の痩《や》せ形《がた》の、どこか小僧気《こぞうけ》のとれぬ商人風の少《わか》い男とが、ならんでいた。揉上《もみあ》げの心持ち長い女の顔はぽきぽきしていた。銀杏返《いちょうがえ》しの頭髪《あたま》に、白い櫛《くし》を※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28、176−下−2]《さ》して、黒繻子《くろじゅす》の帯をしめていたが、笹村のそこへ突っ立った姿を見ると、笑顔《えがお》で少し前《すす》み出て叮寧に両手を支《つ》いた。
「……母がお世話さまになりまして。」
四
近所で表へ水
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