しているらしかった。
「旦那に相談して、いいお婿さんを世話してもらったらいいじゃないの。」
 お増はそのたびに、無造作にそう言った。
「伎倆《はたらき》のある商人か、会社員がいいよ。男ぶりなどはどうでもいいのよ。」
 お増はそうも言ったが、最初たよって来た時から見ると、お今の心が大分自分から離れていることなどが、お増にもちらちら感ぜられた。自分の家のような心易さで、お互いに往来《ゆきき》のできそうなお今の家庭が、自分の思いどおりに作られそうもないことが寂しくもあり安易でもあった。
「だんだん生意気になりますよ。」
 お増は夫婦でお今の噂をしている折々などに、浅井に話したが、笑って聞いている浅井はそれを受け入れそうにも見えなかった。
「あなたがちやほやするから、なおさらなんですよ。」
「まさか。世間がそうなんだよ。」
「あなたはやっぱり若い女がいいものだから。」
 浅井はにやにやしていた。
「だから、いい加減に田舎へ還《かえ》す方がいいんですよ。せっかく世話して、喧嘩《けんか》でもしちゃつまらないから。きっとそうなりますよ、終《しま》いには……。」
「それもよかろう。」
 浅井は争いもし
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