が、お増の目に惨《みじ》めに見えた。張合いのなさそうな、懈《だる》いその生活がそぞろに憫《あわ》れまれもした。
「私まだあすこにいた時の方が、いくらか気に引っ立ちがあったよ。出てしまって、かえってつまらなくなってしまいましたよ。」
「でも青柳さんが、そんなことしていれば、やっぱりいい気持はしないでしょうね。」
「何でもありゃしませんよ。」
お雪は剥くものを剥いてしまうと、それを目笊《めざる》に入れて、水口にいる女中の方へ渡した。そして柱に背《せなか》を凭《もた》せて、そこにしゃがんでいた。
「ちょいと、あなたとこのこれはどうして?」
お雪は小指を出して見せて、「もう片着いて?」
「うん、まだ駄目なの。」
お増は眉を顰《ひそ》めた。
「月が変ったら、|お柳《あのひと》の兄さんが田舎からその談《はなし》に出て来ることになってはいるんですけれどね。」
「家の青柳も、堅気になって、何かこんなようなことでも出来ないものかしら。」
お雪は独り語《ごと》のように言っていた。
二十五
「お増さん、今日は私ちょっと家へ行って見て来ますわ。」
お増と差し向いの無駄話や花などに、うか
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