》は麗《うらら》かな、いい天気であった。空には紙鳶《たこ》のうなりなどが聞かれた。昨夜《ゆうべ》のままに散らかった座敷のなかに、ふかふかした蒲団を被《かず》いて寝ている二人の姿が、懈《だる》いお増の目に、新しく婚礼した夫婦か何ぞのように、物珍しく映った。部屋には薄赤い電気の灯影が、夢のように漂っていた。
「何だかあなたと私と、御婚礼しているようね。」
 着替えをしたお増は屠蘇《とそ》の銚子《ちょうし》などの飾られた下の座敷で、浅井と差し向いでいるとき、独りでそう思った。そこへお今も、はればれした笑顔で出て来て、「おめでとう。」とはずかしそうにお辞儀をした。健かな血が、化粧した肌理《きめ》のいい頬に、美しく上っていた。
 綱引きの腕車《くるま》で出て行く、フロック姿の浅井を、玄関に送り出したお増は、屠蘇の酔いにほんのり顔をあからめて、恭《うやうや》しくそこに坐っていた。
 家のなかが、急にひっそりして来た。羽子の音などが、もうそこにもここにも聞えた。自分は自分だけで年始に行くときの晴れ着の襦袢の襟などをつけているうちに、もう昼になって、元日の気分がどことなくだらけて来た。

     二
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