がわるいから、明後年《さらいねん》にでもなったら、療治をしましょうよ。」
しみじみした話に、時が移って行った。
このごろ色稼業《いろかぎょう》を止めて、溜めた金で、芝の方に化粧品屋を出した女のところからの帰りがけなどに、ふと独りでお今の二階へ寄って、疲れた体を休めて行くことなどがあった。お今は押入れから掻捲《かいま》きなどを出して来て、横になっている浅井にそっと被《き》せかけなどした。
花で夜更《よふか》しをして、今朝また飲んだ朝酒の酔《え》いのさめかかって来た浅井は、爛《ただ》れたような肉の戦《わなな》くような薄寒さに、目がさめた。綺麗にお化粧《つくり》をして、羽織などを着替えたお今が、そこに枕頭《まくらもと》の火鉢の前にぽつねんと坐っていた。
お今のいれてくれた茶に、熱《ほて》った咽喉《のど》や胃の腑《ふ》を潤しながら、浅井は何事もなさそうな顔をして、日の迫って来たお今の婚礼の話などをしていた。
五十六
埃《ほこり》っぽい窓の障子に、三時ごろの冬の日影が力なげに薄らいで来たころに、浅井はやっとそこを脱け出したが、遊びに耽り疲れた神経に、明るい外の光や騒がしい
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