、そっと室に訊いてみたが、この男に秘密を打ち明けないでいることが、空おそろしいようであった。
「なぜです。」
室はそう言いたげに、にやりと笑っていた。
「あの人にも困ったもんですよ。」
お増は口まで出そうにするその秘密を、やはり引っ込めておかないわけに行かなかった。
「一度あなたから、よく訊いてみて頂戴よ。」
そこへ小用に行ったお今が、入って来た。三人はある小奇麗な鳥料理の奥まった小室《こま》で、ビールやサイダなどを取りながら話していた。廊下の手欄《てすり》に垂れた簾《すだれ》の外には、綺麗に造られた庭の泉水に、涼しげな水が噴き出していたり、大きな緋鯉《ひごい》が泳いでいたりした。碧《あお》い水の面《おもて》には、もう日影が薄らいでいた。湯に入って汗を流して来た三人の顔には、青い庭木の影が映っていた。お今は肥った膝のうえに手巾《ハンケチ》を拡げて、時々サイダに咽喉《のど》を潤していたが、室と口を利くようなことはめったになかった。
室はどうかすると、幽鬱《ゆううつ》そうに黙り込んでしまった。
「あなたはほんとに真面目だわ。」
お増はビールを注《つ》いでやったりなどしたが、室は苦
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