好意を言い出さずにはいられなかった。
浅井と一緒によそへ出たりなどするお増に、お今は時々厭な顔を見せたりした。
「真珠のがないから、これは私のにしておきますわ。」
お増はそう言って、指環をサックに収《しま》った。
「そんならそれをお前のにしておいて、何か高彫りのを一つ代りにやるかね。」
浅井は笑いながら言った。
「いけませんよ。あなたがあんまりちやほやするから、増長してしようがないんです。このごろ大変|渝《かわ》って来ましたよ。あなたが悪いんです。」
「けど、それはしかたがないよ。見込んで託《あず》けられて見れば、こっちだって相当のことはしなければならん。これから室の方の話が纏まるものとすればなおさらのこと、うっちゃってはおけない。」
いつもよく出るお今のことが基《もと》で、それからそれへと、喧嘩《いさかい》の言《ことば》が募って行った。時々花などに託《かこつ》けて耽《ふけ》っている、赤坂の女のことなども、お前の口から言い出された。
「私がいくら骨おって始末したって、とても駄目ですよ。内は内でお今ちゃんなぞがいて贅沢《ぜいたく》を言うし、外は外で絞られるところがあるんだもの、私
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