透《みすか》された。それが浅井とお今とであるらしかった。ふと白いベッドのなかに、雑種《あいのこ》のような目をしたお今の大きな顔と、浅井の形のいい頭顱《あたま》とがぽっかり見えだしたりしていた。今までいなかったような浅井の寝顔が、薄赤い電燈の光のなかに、黄色く濁ったように眺められるのが、覚めたお増の目に、気味が悪いようであった。
 まじまじ天井を見詰めているお増の目に、いつか気の狂って死んだというお柳の姿が、まざまざと浮き出して来た。
 時々兄や母の圧《おさ》えつける手から脱《のが》れて、東京へ行くといっては、もがき苦しんだり、家中|暴《あば》れまわったりしたというお柳の、死んだという兄からの報知《しらせ》が、浅井のところへ来たのは、ついこのごろのことであった。
 お柳は夜中に、寝所《ねどこ》から飛び出して、田舎の寂しい町を、帯しろ裸の素足のままで、すたすた交番へ駈け着けたりなどした。
「ちょいと恐れ入りますがね、今私を殺すといって、家へ男が押し込んで来ましてね……。」
 お柳はそう言いながら、蒼い死人のような顔をして、落ち窪《くぼ》んだ目ばかり光らせていた。
 そこへ兄が、跡を追ってや
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