頭脳《あたま》の働きの鈍い津島に、さく子はいくらか弟の非を蔽《おほ》ふやうな説明を加へたのであつた。津島はその弟に可なりな補助を与へたこともあつたけれど、利き目のないのに懲《こ》りて、さうした交渉は作らないことに決めてゐたのであつたが、ふいと虚につけ込んで小股をすくはれたのが、腹立しかつた。さく子も弟の悪いことは十分知つてゐた。大袈裟《おほげさ》に津島の恩を弟に着せたりすると、それが津島には擽《くすぐ》つたくもあつた。しかしその時は幾らか体裁を作るためにか、それとも気づかずにか、とにかく曖昧《あいまい》にしようとした。が、其よりも差当つて質に入れられたものを、津島は取返さうとした。そして終ひに自分で金を払つて、漸《やうや》く取り返すことができた。その金は僅《わづ》かだつたけれど、人を舐《な》めたやうな彼の態度が憎《にく》かつた。彼はさく子にも当らずにはゐられなかつた。そんな場合に、子供に甘いさく子たちの母親が、誠意をかいてゐることも津島を不快にした。
 津島はさく子に移されて行つた不快が、まだ滓《かす》のやうに腹に残つてゐたので、さうしたさく子の調子が、忽《たちま》ち逆上性の神経を苛立
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