は多勢の子供をひかへて家を追立てられる悲哀と、借家を捜《さが》す困難とを、その時つく/″\感じた。そして友人の助力などで、とにかく其の古屋に永久落着くことになつて、一時|吻《ほつ》としたのであつたが、それだけの室数では、何《ど》うにも遣繰《やりく》りのつかないことが、その後一層彼の頭脳《あたま》を悩ました。彼は家を増築するか、別に一軒家を借りるか、するより外なかつた。入学試験をひかへてゐる子供に、近所で部屋を借りてやつたりして、忙しい時は自分でも旅へ出たり、下宿の部屋を借りて出たりしてゐたが、それよりも前の家主時代から、彼と同じ借家人である、前の家を明けてもらつた方が、何《ど》んなに便利だか知れなかつた。その家は二つに仕切られて、二組の家族が住んでゐた。津島はその一方だけでも立退いてもらふつもりで、交渉してみたけれど、普通の交渉では、迚《とて》も明渡してくれさうになかつた。そして数回の折衝を重ねた結果、到頭《たうとう》法廷にまで持出されることになつたのであつたが、法律家の手に移されてからは、問題は一層困難に陥《おちい》るばかりであつた。ちやうど泥沼へでも足を踏込んだやうな形で、彼も借家
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