か。」
「いゝんですとも。」
 彼は受付へ行つて、チケットを買ふと、恭《うや/\》しく女達の前へいつた。そして踊りだした。それは何かエロ味《み》の露骨な、インチキで荒つぽい踊りであつた。
「実に好いところを発見した。こんな好いところが、この町にあるなんて、迚《とて》も嬉しくなつてしまつた。」
 そして彼は陰欝に爆笑した。
 私は二枚ばかりのチケットをポケットに残して、アトリエを出た。筋肉運動が、憂欝な私の頭脳《あたま》を爽《さはや》かにした。
 帰ると直ぐ、私は客間につられた広い青蚊帳《あをがや》のなかで、甘《あま》い眠りに陥《お》ちた。
[#地から1字上げ](昭和八年三月)



底本:「現代文学大系 11 徳田秋聲集」筑摩書房
   1965(昭和40)年5月10日発行
初出:「経済往来」
   1933(昭和8)年3月
入力:高柳典子
校正:土屋隆
2007年4月24日作成
青空文庫作成ファイル:
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