は袱紗《ふくさ》に包んだ紙入れのなかから、女持ちの金時計を一つ鎖ごと取り出して、ランプの心を掻き立て、鎖の目方を引いたり型の説明をしたりして叔母に勧めていた。お庄も傍へ行って見た。その時計は同じ会社の上役の某という人の細君の持物であった。その女が花に負けて、一時の融通に質屋へ預けてあったのを、今度厭気がさして、質の直《ね》で売るのだということを、小原は繰り返して、出所《でどころ》の正しいことを証明した。
 叔母はさんざん弄《いじく》りまわした果てに、気乗りのしない顔をして男の手へ品物を返した。
「また余所《よそ》へお売りになればったって、決して御損の行く品物じゃありません。」小原は傍に手を突いて覗いているお庄と叔母との顔を七分三分に見比べながら言い立てた。お庄はまた顔に袖を当てて笑い出した。
「いや真実《ほんとう》に。」と、その男も笑い出した。そして一順人々の手を経廻《へめぐ》って来た時計を、そっと懐へしまいこんだ。
 やがてランプの釣《つ》り手を掛けかえて、この男と叔母と母親とで、花が始まった。
「あなたもお入りなさいな。」と、お庄も仲間に引き入れられた。お庄は身幅の狭い着物の膝を掻
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