き合わせながら、目にちらちらする花札を手にした。鶴二は後の方で今日の日記を小さい手帳に書きつけていた。
叔父が奥から、のそりと起き出して来たころには、花も大分進んでいた。
叔父はお庄の背後《うしろ》の方に坐り込むと、時計を見あげて懈《だる》い欠をしていた。時計はもう九時を過ぎていた。
「そんな手で出るというのがあるものか、お庄は花を知らないかい。」叔父はお庄の肩越しに覗き込んで、煙管を咬《くわ》えながら一ト勝負後見した。
やがて叔父が褞袍《どてら》を羽織って、連中の間へ割り込むと、お庄は席をはずれて、酒の燗《かん》をしたり、弟と二人で寒い通りへ衆《みんな》の食べる物を誂《あつら》えに走ったりした。
花札の音が夜遅くまで、籠《こも》った部屋に響いた。
三十三
去年薬くさい日本橋で過した初夏《はつなつ》を、お庄は今年築地の家で迎えた。浅草から荷物を引き揚げて来たころから見ると、叔父の体は一層忙しくなっていたし、家も景気づいていたのだ。お庄も叔父が見立ててくれた新しい浴衣《ゆかた》などを着せられて、夕化粧をして、叔母と一緒に鉄砲洲《てっぽうず》の稲荷《いなり》の縁日な
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