》を卸《おろ》して、店を出さしてやるというこんだから、何が正雄の得手だか、それが決まると口を見つけて、すぐそっちへ行くことになっているだけれどね……。」
「正ちゃんは何がいいていうんです。」
「それが自分にも解らないそうで……。」母親は茶の湯気で逆上目《のぼせめ》を冷やしていた。
叔母が起きて来て、三人で飯を済ましてもまだ叔父は帰って来なかった。叔母は出勤の時間を気にしながら、始終表の方へ耳を引き立てていた。顔に淡《うす》く白粉などを塗って、髪も綺麗に撫《な》でつけ、神棚に榊《さかき》をあげたり、座敷の薄端《うすばた》の花活《はないけ》に花を活けかえなどした。お庄はそんな手伝いをしながら、昼ごろまでずるずるにいた。
叔父は三時ごろにやっと帰って来た。叔母は待ち憊《くたび》れて安火に入って好きな講釈本を読んでいたし、お庄は帰ろう帰ろうと思いながら、もう外へ出るのが億劫《おっくう》になって、暖かい日のあたる縁側で、雲脂《ふけ》の多い母親の髪を釈《と》いて梳《す》いてやっていた。
叔父はどこか酒の気もあるようであった。細い首に襟捲きを捲いて、角帯の下から重い金時計を垂下《ぶらさ》げ、何
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