に火も興《おこ》りかけていたし、鉄瓶にも湯を沸かす仕掛けがしてあった。お庄も襷がけになって、長火鉢の掃除をしたり茶箪笥に雑巾をかけたりした。
そこらが一ト片着き片着いてしまうと、衆《みんな》は火鉢の傍へ寄って、母親が汲《く》んで出す朝茶に咽喉《のど》を潤《うるお》した。鶴二も正雄も、もう朝飯の支度の出来た餉台《ちゃぶだい》の側に新聞を拡げて、叔母の起きて出るのを待っていた。
するうちに座敷の方へ日がさして、朝の気分がようやく惰《だら》けて来た。東京地図を畳んだり拡げたりして、今日見て歩くところを目算立《もくさんだ》てしていた鶴二は、気がいらいらしてきたように懐中時計を見ては、しきりに待ち遠しがっていた。母親も茶碗を手にしながら欠《あくび》をしだした。お庄は二人に飯を食べさしてから、正雄に小遣いを少し持たして鶴二と一緒に出してやった。正雄は暮から学校の方も休《よ》していた。
「頭脳《あたま》の悪いものは、強《し》いて学問などさして苦しますより、いっそ商売を覚えさすか職人にでもした方が早道だそうでね。」と母親は叔父の言ったことをお庄に話した。
「どっちにしても、叔父さんが今に資本《もと
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