を眺めていた。
「さあ、鶴二《つるじ》も正ちゃんもお寝みなさいよ。」と、広い座敷の方へ寝道具を取り出して、そこへ二人を寝かせてしまうと、叔母は心配そうな顔をして、火鉢の傍へ寄って来た。近所はもう寝静まって、外は人通りも絶えてしまった。霊岸島《れいがんじま》の方で、太い汽笛の声などが聞えた。
 叔母はその晩、しみじみした調子で、家の生活向《くらしむ》きのことなどを、お庄|母子《おやこ》に話して聞かせた。今の会社でいくらか信用が出来るまで、二度も三度もまごついたことや、堅くやっておりさえすれば、どうにかこうにか取り着いて行けそうな会社の方も、少し尻が暖まると、もうほかのことに手を出して、事務がお留守になりそうだということなどを気にしていた。叔父はそのころから株に手を出したり、礦山《こうざん》の売買に口を利いて、方々飛び歩いたりした。そして儲《もう》けた金で茶屋小屋入りをした。
「良人《うち》もあすこは、今年がちょうど三年目だでね、どうか巧い工合に失敗《しくじ》らないでやってくれればいいと思ってね……三年目にはきっと失敗《しくじ》るのが、これまでのあの人の癖だもんですからね。」
 母親は性の
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