るくらいなら、余所《よそ》へくれた方がいいわ。」
「あの年をしていて、わが子よりは内儀《かみ》さんの方が可愛いなんて、お爺《じい》さんも随分だわね。」
 蒼《あお》い顔をして、女中と一緒に、隅の方で飯を食っている、その女の子の様子を見ると、お庄も厭な気がした。「それでもお前たち子供が可愛そうだと思ったもんで……。」と、いつか母親の言った語《ことば》を思い出された。
「外聞が悪いから、いい加減にしときなよ。」と、爺さんは内儀《かみ》さんのいびり方が劇《はげ》しくなると、眠いような細い目容《めつき》をして、重い体をのそのそと表へ出て行った。そうでもしなければ、彼女の病気がどこまで募るか解らなかった。内儀さんは、請負師の妾《めかけ》をしているころから、劇しいヒステレーに陥っていたらしく思われた。
「おいおい、家は忙《せわ》しいんだよ、朝ッぱらからどこを遊んであるくんだ。」
 隙《すき》のない目で、上って来るお庄の顔を見て、内儀さんは怒鳴った。その顔にはいつものように酒の気《け》もするようであった。どこかやんばらなようなところのある内儀さんは、継子《ままこ》がいなくなってからは、時々劇しくお爺
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