や》の窓の色硝子、幾個《いくつ》となく並んだ神燈の蔭からは、媚《なまめ》かしい女の姿などが見えて、湿った暗い砂利の道を、人や俥《くるま》が忙しく往来した。ここはお庄の目にも昵《なじ》みのないところでもなかった。
お鳥のいる家はじきに知れた。大きい木戸から作り庭の燈籠《とうろう》の灯影や、橋がかりになった離室《はなれ》の見透《みすか》されるような家は二軒とはなかった。お庄は店頭《みせさき》の軒下に据えつけられた高い用水桶《ようすいおけ》の片蔭から中を覗《のぞ》いて、その前を往《い》ったり来たりしていたが、するうち下足番の若い衆に頼んで、お鳥に外まで出てもらった。やがてお鳥は下駄を突っかけて料理場の脇《わき》の方から出て来た。
その家は仲見世《なかみせ》寄りの静かな町にあった。お鳥は花屋敷前の暗い木立ちのなかを脱けて、露店《ほしみせ》の出ている通りを突っ切ると、やがて浅黄色の旗の出ている、板塀囲いの小体《こてい》な家の前まで来てお庄を振り顧《かえ》った。お庄は片側の方へ寄って、遠くから入口の方を透《すか》し視《み》していた。
裏から入って行くと、勝手口は電気が薄暗かった。内もひっそり
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