んですから、堅いと言ったって、ここいらの堅いとはまた違ってますのさ。」お鳥は鼻にかかった声で言って澄ましていた。
お鳥は寝所《ねどこ》へ入ってからも、自分の知っているそういう家の風をいろいろ話して聞かした。
二、三日経ってから、お鳥が浅草の叔母の方へ帰って行ったころには、店の方からよく働く女が一人ここへ廻されていた。方々ですれて来たお鳥の使いにくいことが、その前から奥へもよく解っていた。店の荷造りをする男と、一緒に仕舞湯へ入ってべちゃくちゃしながら、肌の綺麗な男の背を流しなどしているところを、台所働きに見られて、言いつけられた。内儀《かみ》さんはお鳥を呼びつけて、しねしね叱言《こごと》を言った。
「もう厭になっちゃった。どうせこんなところは腰かけなんだから、どうだってかまやしない。」
お鳥は奥から出て来ると、太《ふて》くさったような口を利いて、茶の間にごろごろしていた。
お鳥は出て行くとき、荷部屋へ入って、お庄としばらく話し込んでいた。それから借りた金なども綺麗に返して、包みを一つ抱えて裏から脱けて行った。
後で多勢でこの女の噂が始まった。若い男たちは、お庄らの気着かぬことま
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