を飛び歩いたり、食べ物を塩梅《あんばい》したりする様子も、どうかすると気にかかってならなかった。お庄はそういう時にも、顔に袂を当てがって笑う癖があった。
一緒に湯に入ると、女はお庄の肉着きのいい体を眺めて、「わたしは一度もお庄ちゃんのように肥《ふと》ったことがなくて済んだんだよ。」と、うらやましがった。
お庄はまた、骨組みの繊細《きゃしゃ》なこの女の姿だけはいいと思って眺めた。髪の癖のないのも取り柄のように思えた。
「まアこちらのお宅に辛抱してごらんなさい。こちらもあまりパッパとする方じゃないけれど、内儀《おかみ》さんが目をかけて使って下さるからね。どこへ行ったって、そういい家というものはないものですよ。」と、女はお庄がやや昵《なじ》んだ時分に、寝所でしみじみ言って聴かせた。
お庄はそうして奉公気じみたことを考えるのが、厭なようであった。
女が包みと行李とを蹴込《けこ》みに積んで、ある晩方向島の方へ送られて行くと、間もなくお鳥がやって来た。
お鳥は躯《からだ》の小さい、顔の割りに年を喰った女であったが、一ト目見た時から、どこか気がおけなそうに思えた。
お鳥は来た晩から、洗い
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