りをしていた母親は、あわてて目を擦《こす》って仕事を取りあげた。
主婦は眠そうな母親の顔に、すぐに目をつけた。
「この油の高いに、今までかんかん火をつけて、そこに何をしていただえ。」
主婦は褄楊枝《つまようじ》を啣《くわ》えながら大声にたしなめた。
「私が石油くらいは買うで……。」と、母親は言い返した。
主婦の声はだんだん荒くなった。母親も寝所へ入るまで理窟《りくつ》を言った。
暗いところで小父の脱棄《ぬぎす》てを畳んでいながら、二人の言合いをおそろしくも浅ましくも思ったお庄は、終《しま》いに突っ伏して笑い出した。
十七
お庄はごちゃごちゃした日暮れの巷《まち》で、末の弟を見ていた。弟はもう大分口が利けるようになっていた。うっちゃらかされつけているので、家のなかでも、朝から晩までころころ独《ひと》りで遊んでいた。
「どうせもうそんなにたくさんはいらないで、この子を早く手放しておしまいやれと言うに――。」と、主婦《あるじ》は気を苛立《いらだ》たせたが、母親は思い断《き》って余所《よそ》へくれる気にもなれなかった。
弟は大勢の子供の群れている方へ、ちょこちょこと走
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