入りを扱うことの巧《うま》かった父親は、自家《うち》の始末より、大きな家の世話役として役に立つ方であった。
叔母は手箪笥《てだんす》や手文庫の底から見つけた古い証文や新しい書附けのようなものを父親の前に並べて、「何だか、これもちょっと見て下さいな。」と、むっちり肉づいた手に皺《しわ》を熨《の》した。
「うっかりあの人に見せられないような物ばかりでね。」と、叔母は道楽ものの亭主を恐れていたが、義兄《あに》の懐へ吸い込まれて行く高も少くなかった。
店の品物が、だんだん棚曝《たなざら》しになったころには、父親と叔母との間も、初めのようにはなかった。叔母が世話をしてくれたある生糸商店の方の口も、自分の職業となると、長くは続かなかった。
「堅くさえしていてくれれば、なかなか役に立つ人なんだけれど、どうもあの人も堅気の商人向きでないようでね。」と、叔母はしまいかけてある店頭《みせさき》へ来て、不幸なその嫂《あによめ》に話した。
父親は、その姿を見ると、煙草入れを腰にさして、ふいと表へ出て行った。店には品物といっては、もう何ほどもなかった。雑作の買い手もついてしまったあとで、母親は奥でいろいろ
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