かされた。よく薬種屋の方へ遊びに来ている、お島さんという神奈川在|産《うま》れの丸い顔の女が、この外人の洋妾《らしゃめん》であった。
「ここへ、あの人たちが寝るのさ。」と、色気のない叔母は、寝台に倚《よ》っかかっていながら笑った。
 お庄は目のさめるような色の鮮やかな蒲団や、四周《あたり》の装飾に見惚《みと》れながら、長くそこに横たわっていられなかった。湯島の下宿の二階で、女中に見せられた、暗い部屋のなかの赤い毛布の色が浮んだ。
 淡紅《うすあか》い顔をしたその西洋人が帰って来ると、お島さんもどこからか現われて来て、自堕落《じだらく》な懶《だる》い風をしながら、コーヒを運びなどしていた。
 この叔母が飲んだくれの叔父に、財産を減らされて行きながら、やはり思い断《き》ることの出来ない様子や、そのまた叔父に、父親が次ぎ次ぎに金を出し出ししてもらってる事情が、お庄にも見え透いていた。

     十四

 父親は時々、この叔母の所有に係《かか》る貸家の世話や家賃の取立て、叔母の代のや、父親から持越しの貸金の催促――そんなようなことに口を利いたり、相談相手になったりした。田舎にいたおり、村の出
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