《へいぎわ》に、大きな立《た》ち樹《き》が暗く枝葉を差し交していて、裏通りにも人気がなかった。浅山の話によると、ここはもと神田で大きな骨董商《こっとうしょう》をしていた中村の父親の別邸で、今の代になってから、いろいろな失敗が続いて、このごろではこの家すら抵当に入っているということであった。芳太郎のお袋からも、少しは借りているような様子もあった。
この廃邸《あれやしき》の空気は、お庄にはあまり居心《いごこち》がよくなかった。部屋で声を立てても、奥から駈けつけて来てもらえそうにも思えなかったし、庭も何だか陰気くさかった。こんなところで毎日芳太郎と顔を突き合わしているよりも、家で座敷の手伝いでもしていた方が、まだしも気が紛れてよかったようにも思えた。
深い木立ち際から舞い込んで来た虫が、薄暗いランプの笠に淋しい音を立てて周《まわ》りを飛んでいた。お庄は帯を締めると、障子を閉《た》てきって、暗い廊下の方へ出て行った。
だだッ広い茶の室《ま》では、大きな餉台《ちゃぶだい》がまだ散らかったままであった。下町育ちらしい束髪の細君が、胸を披《はだ》けて萎《しな》びた乳房を三つばかりの女の子に啣《
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