なかった。
 お庄の帰ったのは、八時ごろであった。婚礼後、芳太郎と一緒に、一度挨拶に行ったことがあるので、家の様子は大概解っていた。お庄はその少し手前で俥から降りて、途中で買った手土産を挈《さ》げながら入って行った。
 家はかなり人数が多かった。老人《としより》も子供もあった。お庄は一々それらの人に、叮寧《ていねい》に挨拶をしてから、自分ら夫婦のに決められた奥の部屋へ導かれた。芳太郎はちょうど湯に行っているところであった。
「どうもお世話さまでした。」と、お庄はランプを持って来てくれた細君に愛想よく礼を言って、まだ荷の片着かない部屋を見廻していた。

     八十三

 お庄もそこらを片着けてから、べとべとする昼間の汗を流して来ようと思って、鏡台の抽斗《ひきだし》にしまっておいた糠袋《ぬかぶくろ》などを取り出し、縁づいてからお袋が見立てて拵えてくれた細い矢羽根の置型《おきがた》の浴衣《ゆかた》に着かえた。
 部屋はたッた六畳敷きで、一間の押入れに置き床などがあって、古びた天井も柱もしっかりしていた。住居とはかけ放れた方の位置で、前はすぐ広い荒れた庭になっていた。崩れかかったような塀際
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