さんには、もう逢えやしませんよ。」と、お庄はプラットホームを歩いていながら、帰りに弟に話しかけた。弟はまだ売り損ねたパナマがおかしいと言って思い出し笑いをしていた。
 送った人たちと一緒に、お庄は湯島の家へ引き返して来たが、今日は中村の家で初めて泊る日だと思うと、うんざりした。一《ひ》ト纏《まと》めにして出て来た、鏡台や着替えを入れた行李などが、もう運び込まれているころだとも思った。
「ああなるのも自業自得でしかたがない。」と、母親らは、まだ茶の室《ま》で茶を呑みながら、今立たしてやった叔父の噂をしていた。
 お庄もそれに釣り込まれながらも、時の移るのが気が気でなかった。

     八十二

「真実《ほんとう》におっかない人ですよ。」と、お庄は立ち際に、伯母と母親の前で、子の間芳太郎に刃物で追っかけられた話をしながら言い出した。お袋も一度は斬《き》りつけられて怪我《けが》をして、長いあいだ奥州の方の温泉へ行っていたということも話した。
「それじゃまるで話が違うがな。」と、母親は顔の色を変えていた。そんなところへお庄を取り持った四ツ谷の人たちの心持も疑わしいと思った。
「お前が客の前へ
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