すごすごと歩いていたが、どこへ行くという的《あて》もなかった。
 伝馬町の方へ出ようとする途中で、二、三度車夫に声をかけられたが、乗る決心もつかぬうちに、皆なやり過してしまった。
 停車場へ来たのは、もうよほど晩《おそ》かった。構内には、疲れたような人の姿がちらほら見えていた。お庄は薄暗い隅の方のベンチに腰を卸《おろ》しながら、上り下りどっちの切符を買おうかと思案していた。

     七十五

 その晩お庄は本郷の方に泊った。
 ちょうど正雄が来合わせていて、姉弟《ふたり》は久しぶりで顔を合わした。正雄はこれまでにも二度ばかり親方を取り替えた。体の弱いので、あまり仕事の劇《はげ》しい家では、辛抱がしきれなかった。お庄はそのたびに弟をつれて、前の主人へ話をつけたり、新しい洋服店へ交渉したりした。今の家は女主《おんなあるじ》であった。その主人はお庄のところへも遊びに来て、一緒に花など引いたこともあった。
 正雄は脚気で蒼い顔をしていた。お庄の変った様子を見て、にやにや笑っていたが、お庄も弟の様子がめっきり落ち着いて来たと思った。
「医師《いしゃ》が転地しろと言うそうで。」と、母親は一番体
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