くつ》になってこうして立働きもしなければならぬという愚痴が、じきに始まった。
「私が寝てばかりいるもんだから、浅山にも気の毒でね。」と、従姉《あね》も萎《しお》れて言った。
 浅山が、今の役所を罷《や》めて、今度の帰朝を幸いに姉婿の方へ使ってもらう運動をしているのだが、それがうまく行きそうにもない様子が、母子《おやこ》の口から洩れた。
 お庄は伯母と従姉《あね》が、着るものを着ないでも、膳の上にうまいものの絶えたことのないのを知っていた。伯母が浅山と同じに、刺身などに箸をつけながら、ちびちび晩酌をやっていることもめずらしくなかった。お庄はこの人たちの貧乏するのに不思議はないと思った。
「……少し媒介人《なこうど》に瞞《だま》されたようですよ。」と、お庄は帯の間から莨入れを取り出して、含嗽莨《うがいたばこ》をふかしながら言い出した。
「始終家が揉《も》み合っているものですし、あの人だってちっとも柔順《おとな》しかありませんよ。」
「それでもいい男だという話じゃないかえ。――酒癖でも悪いと言うのかい。」と、伯母は切り髪頭の、長い凋《しな》びた顔を顰《しか》めながら言った。
 お庄は思ってい
前へ 次へ
全273ページ中233ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング