ら、銀貨の勘定をしていた。
「それが厭なら、身上を速く己に渡すがいいんだ。」と、駄々を捏《こ》ねた。
 親父は苦い顔をして、帳場の方で見ぬ振りをしていた。
「誰がこの身上を作ったとお思いだい。莫迦《ばか》お言いでないよ。」と、お袋はたしなめたが、強いて止めることも出来なかった。お庄が来る少し前に、親子の間《なか》が揉《も》めてしばらく家を出ていた親父を、また引っ張り込もうとして大喧嘩をした時、外から食《くら》い酔って帰って来た芳太郎に、刃物を振り廻されたことが、お袋にも気味が悪かった。
 芳太郎は金を持ち出して行くと、宿《しゅく》の方へ入り浸って、二日も三日も帰らなかった。お庄が来てからも、新婦《にいよめ》の仕打ちに癇癪《かんしゃく》を起して、夜中に家を飛び出すこともめずらしくなかった。
 お庄はぷりぷりして出て行く芳太郎を送り出すと、そっと戸締りをして、また寝所《ねどこ》へ復《かえ》った。そして楽々と手足を伸ばして甘い眠りに沈むのであった。
「おいおい。」
 床屋の店から、芳太郎が声をかけた。お庄は黙って行き過ぎようとした。

     七十三

「おい、お前どこへ行く。」と、芳太郎
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