た。お庄は女たちにそのことをいろいろ言われた。
「私はあんなのッぺりしたような人嫌いですよ。」と、お庄は顔を背向《そむ》けながら言った。
「それでも家の芳ちゃんよりかもいいでしょう。」と、年増の方の女は、そこにべッたり坐っていた。
「芳ちゃんも可哀そうね。」と、若い方の女は、餉台《ちゃぶだい》の上を拭きながら呟いた。
 八時ごろに、お庄はお袋に断わって、ちょっと四ツ谷まで出かけた。何だか今夜は家にじッとしてもいられなかった。
 停車場まで来ると、前の床屋で将棋仲間に加わっていた芳太郎が、すぐにお庄の姿を見つけた。お庄が客の前へ出るのを、芳太郎は快く思わなかった。そんな時にはきっと料理場で菰冠《こもかぶ》りの飲口を抜いてコップで酒を呷《あお》ったり、お袋に突っかかったりした。そうしたあげくに、金を掴《つか》みだして、ぷいと家を飛び出して行った。手近に金のない時は、板片《いたぎれ》の端に黐《もち》をつけて、銭函《ぜにばこ》の中から銀貨を釣り出した。
「家のものは皆な己《おれ》のものだ。己の物を己が持ち出すに不思議はない。」
 芳太郎はこう言って、銭函の前に、どかりと胡坐《あぐら》をかきなが
前へ 次へ
全273ページ中227ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング