持って来てくれた時も、同じようなことを聴かされた。相談ずくで、自分を店の売り物にしようとしているような二人の心持が、ようやく見えて来たようにも思えた。
洋服屋が前に来て騒いだ時も、お庄は着物など着替えさせられて、座敷へ出された。その男は酒に酔うと浮かれて唄《うた》など謳《うた》い出した。そして帰りがけに、衣兜《かくし》から名刺を取り出して、お庄にくれた。名刺には高等洋服店|何某《なんのなにがし》と記してあった。
洋服屋は、今日もお袋にちやほやされて、養女のお庄を相手に騒いでいた。お庄は銚子《ちょうし》を持って母屋《もや》の方へ来たきり、しばらく顔出しをしずにいると、また呼び立てられて、離房《はなれ》の方へ出て行った。
「お客さまの前へはあまり出さないことにしておりますものですから……。」と、お袋はお愛想を言いながら、入れ替りに部屋を出た。
七十二
暮れてから客が引き揚げて行くと、家が急に淋しくなった。お庄も強いられた酒の酔いがさめかかって来た。取り散らかった座敷を片着けている女中を手伝いがてら、二階へ上って手擦りに凭《よ》りかかっていると、裏の田圃《たんぼ》で啼《な
前へ
次へ
全273ページ中225ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング