ん》をしていた。子供たちは餉台の周《まわ》りに居並んで、てんでんに食べ物を猟《あさ》っていた。
母親は手元の薄暗い流し元にしゃがみ込んで、ゴシゴシ米を精《と》いでいた。水をしたむ間、ぶすぶす愚痴を零《こぼ》している声が奥の方へも聞えた。お庄はまた母親のお株が始まったのだと思った。父親はそのたんびにいらいらするような顔に青筋を立てた。
母親が襷《たすき》をはずして、火鉢の傍へ寄って来る時分には、父親はもうさんざん酔ってそこに横たわっていた。お庄は、気味のわるいもののように、鼻の高い、鬢《びん》の毛の薄い、その大きな顔や、脛毛《すねげ》の疎《まば》らな、色の白い長いその脚《あし》などを眺めながら、母親の方へ片寄って、飯を食いはじめた。
母親の口には、まだぶすぶす言う声が絶えなかった。臆病《おくびょう》なような白い眼が、おりおりじろりと父親の方へ注がれた。張ったその胸を突き出して、硬い首を据《す》え、東京へ来てからまだ一度も鉄漿《かね》をつけたことのないような、歯の汚い口に、音をさせて飯を食っている母親の様子を、よく憎さげに真似してみせた父親の顔に思い合わせて、お庄は厭なような気がした
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