で、呼吸《いき》のつまりそうな厚い大きな田舎の夜具にぐるぐる捲きにされて、暗い納戸の隅にうっちゃっておかれたり、霙《みぞれ》がびしょびしょ降って寒い狐《きつね》の啼き声の聞える晩に、背戸へ締出しを喰わしておいて、自分は暖かい炬燵《こたつ》に高鼾《たかいびき》で寝込んでいたような父親に、子供は子供なりの反抗心も持って来た。
 お庄はどの家でも、明るい餉台《ちゃぶだい》の上にこてこてと食べ物が並べられ、長火鉢の側で晩飯の箸《はし》を動かしている、賑《にぎ》やかな夕暮の路次口を出て行くと、内儀《かみ》さん連の寄っているような明るい店家の前を避けるようにして、溝際《みぞぎわ》を伝って歩いていた。いつも立ち停って聞くことにしている通りの師匠の家では、このごろ聞き覚えて、口癖のようになっているお駒才三《こまさいざ》を誰やらがつけてもらっていた。お庄は瓶を抱えたまま、暗い片陰にしばらくたたずんでいた。
 お庄は振りのような手容《てつき》をして、ふいとそこを飛び出すと、きまり悪そうに四下《あたり》を見廻して、酒屋の店へ入って行った。
 急いで家へ帰って来ると、父親はランプの下で、苦い顔をして酒の燗《か
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