らぬとも考えた。
 天神下の叔父の家の二階に潜伏《しゃが》んでいる磯野とお増のことが、時々思い出された。お庄は明りがつく時分になると、天神の境内から男坂の方へ降りて行った。どの町を歩いても、軒ごとに門松や輪飾りが綺麗に出来|揚《あが》って、新しい春がもう来たようであった。羽子板を突いている少《わか》い娘たちの顔にも待ち遠しい色があった。
 お庄は淋しい男坂を、また一人で登って来た。
「お庄も、ああしてうっちゃっておいちゃ悪いがな。」と、湯島の伯母が、蔭で気を揉んだ。

     六十七

 お庄が下谷《したや》の方のある眼鏡屋の子息《むすこ》と見合いをさせられることになったのは、一月の末であった。その眼鏡屋を、湯島の伯母の家主が懇意にしていた。家主が以前下谷で瀬戸物屋をしていた時分からの知合いで、今茲《ことし》二十四になった子息《むすこ》のこともよく解っていた。
 お庄は伯母の家で、時々この家主の家の娘と顔を合わして双方が知っていた。娘はもう三十歳《さんじゅう》余りで、出戻りであったが、瀬戸物屋をしまってから、湯島の方へ引っ越して来た。母子二人きりで質素に暮し、田舎へ小金を廻しなどして
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