。」と、お庄も芳村の心をもどかしく思った。
 二階に寝ていた叔父が起きて来てから、芳村は昨夜《ゆうべ》托《あず》けておいた鞄を提げ出して、やがて友達と一緒に帰って行った。叔父は淋しい朝飯の膳に向いながら、母子《おやこ》がしている磯野らの噂に耳を傾《かし》げていた。
「お庄も、築地にいる時分にどこかへ片着けておくだったい。」と、母親はお庄の厭がる弟の給仕をしながら、以前のことを思い出していた。運の向きかけて来てから、まだまだ前途があるように言っていた弟が、こんなにばたばたと息ついて来ようとは思わなかった。
 お庄はすることが手に着かなかった。縫直しに取りかかろうとしていた春着の襦袢《じゅばん》なども、染物屋から色揚げが届いたばかりで、この四、五日のどさくさ紛れに、まだ押入れへ突っ込んだままであった。ひとしきり自分の体に着くものと決まっていた数ある衣類も、叔父に言われて、世帯の足しに大方|余所《よそ》へ持ち出してしまった。磯野が時に工面《くめん》に行き詰ったおりおり、母親に秘密で、二人でそっと持ち出して行った品も少くなかった。今度磯野に逢ったら、せめてそれだけでも取り返す工夫をしなければな
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